アクション演歌と哀愁の男歌 2つの世界観で人気に
■冠さんといえばアクション演歌で知られていますが、その代表曲でもある『炎』を唄うことになった時にはどう感じましたか?
この歌ができたのは焼肉屋で師匠である三浦(康照)先生とその奥様、マネージャーと4人で食事をしている時に、「昭和も終わったし、新しい演歌をやりたいね」という話になったのがきっかけでした。奥様が英語を入れた「アイ、アイ、アイライク演歌」のフレーズや、祭りの掛け声「セイヤ」を入れることを思いついて。曲は和田香苗先生にお願いしたところ、完成したのがラテンロックと和太鼓を取り入れた和洋折衷アレンジの『炎』でした。
■冠さんのアクションも話題になりました。
テレビ番組で唄うとよく、「セイヤ」の掛け声で何かポーズを決めてくれと言われて、自分の中から湧き出たのがあのアクション。俺が若い頃はブルース・リーが全盛期でよく見ていたので、たぶん、その影響が大きいですね(笑)
■そんな冠さんが、いつものパワフルな姿を封印して唄う歌があるそうですね。
『旅の終りに』ですか。これは、デビュー10年目にして初めてヒットした歌でした。五木寛之先生が書いた『海峡物語』をドラマ化した時に、影歌といって、そこに登場する新人歌手役の、役者さんの代わりに歌声だけを担当したんです。
五木先生がレコード会社に所属する演歌歌手の歌声をすべて自分で聴き、演じる役者さんの喋る声と似ていること、歌唱力があること、売れていないことを条件に探したら、該当するのは冠二郎だということになった。なぜなら、売れている人だと世間に声も知られているし、ドラマの急な撮影スケジュールにも合わせられないでしょう。
■おかげで『旅の終りに』は冠さんの代表作になったんですね。
レコード化する時には、小林旭さんなど有名な方にという話もあったようですが、すでに世間には俺の声で認知されていたので、冠二郎の作品としてリリースできました。
その後、アクション演歌で盛り上がっていた頃に五木先生に再会したら、「ひとつお願いがある。『旅の終りに』を唄う時だけは、今の三枚目路線ではなく真剣に唄って欲しい」と言われたんですよ。「人生の一番辛かった時のことを思い浮かべて唄って欲しい」と。それ以来、五木先生の世界観を壊さないよう、その約束を守って唄っています。
遠回りしたからこそ表現できる演歌の神髄
■初ヒットから次のヒットまでが、また長い道のりでしたね。
とにかく全国各地に営業に行きました。全国の有線放送や3千軒近くの飲み屋を回ったので、大抵のスナックには俺のサインがありますよ。八代亜紀さんに「誰よりもキャンペーンを回ったのは、歌手としての誇りにと思うべき」と言われたのは、嬉しかったですね。
五木寛之先生や遠藤実先生にも、「遠回りした人でないと演歌の神髄は表現できない」と言われたことがあり、やはり演歌は経験あってこそ。これで良かったんだと思います。
■『旅の終りに』から14年後に『酒場』が大ヒット。念願の『NHK紅白歌合戦』にも出場を果たしました。
デビュー24年で初出場。今までの紅白出場歌手の中で、最長記録だそうです。
実はそれ以前にも『しのび酒』で紅白に出られるかもしれないと期待したけれど、残念ながら落選。ちょうどその頃に、業界の人の間で「冠くんは酒さえ飲まなければいいのに」という声があるのを知りました。大酒飲みだったので、翌日も酒の匂いをさせて仕事に行ったこともあり、それなら「紅白に出られるまでは酒をやめます」と、マスコミに宣言してしまった。酒の飲み過ぎで肝炎になりかけていたこともあり、身体にはちょうどよかったんだけどね(笑)それ以来、今まで一度も酒は口にしていませんよ。
■初めての紅白は楽しめましたか?
初出場だと泣く歌手が多いので、俺は絶対に泣かないと決めていました。ところが本番はやっぱり緊張するんですね。舞台の上には自分の立ち位置に印がついていて、リハーサルで確認もしたのですが、本番で唄う時にふっと見たら印が2カ所ある。あれ、どっちが自分の立つ位置だろうかと。最初に前方の印に立ったらライトが当たらない。これは後ろの印だと下がったら、今度はライトが当たったので、ニコッと笑ってそのまま唄い続けたら、審査員の人たちにいい度胸をしていると評価されました(笑) まさに災い転じて福となす。そんなことがあったので、あとは腹が座り、肩の力を抜いて唄えました。
結婚してようやく板についた男と女の恋の歌
■いつも楽しい話題に事欠かない冠さんですが、昨年31歳年下の女性と結婚されたのには驚いたファンも多いのでは?
実は一昨年、5歳年齢をサバよんでいたのがバレまして(笑)却ってそれが良かった。結婚すると実の年齢がバレるから、それまでは結婚を考えられなかったんです。年齢詐称がバレた後の昨年の春に彼女と出会ったのは、タイミングも含めて運命だと思いましたね。
■結婚して変わられた部分もあるのでは?
「デレデレしたアニキは見たくない」というクレームもチラホラあります(笑)が、結婚して初めて男女の情や女心の機微を心底、理解できた部分がありますね。
■50周年記念に再リリースされた『ふたりの止まり木』も男と女の歌ですよね。
この歌はね、最初は照れくさくて唄うのがイヤだったの。でも、夫婦になって初めて、男と女の歌がやっと板についたというか、繕ったり演じたりせずに唄えるようになりました。結婚したおかげで、この年齢になっても歌手として成長させてもらいましたよ。
■まだまだ、今後の冠さんの活躍を楽しみにしている方が多いと思います。
そうですね。紅白歌合戦にも返り咲きたいですし、今まで経験のない座長公演もやってみたい。俺を目指して来てくれる後輩もたくさんいるから、まだまだ頑張らないといけないですよね。
今回のCD集で冠二郎50年の集大成をたっぷり楽しんでもらった後は、これからの冠二郎にも、ぜひ期待してもらえるとうれしいですね。
文・構成:北井優子
冠 二郎 プロフィール
昭和42年 『命ひとつ』でデビュー。
昭和52年 ドラマ『海峡物語』の主題歌『旅の終りに』が初の大ヒット。
平成3年 『酒場』で『NHK紅白歌合戦』に初出場。平成4年、平成7年と計3回出場。
平成4年 『炎』が人気となり、続く『ムサシ』『バイキング』などが「ネオ演歌」「アクション演歌」の名称で若者からも支持を集める
平成28年歌手生活50周年を迎え、平成29年3月『ふたりの止まり木 歌手生活50周年記念バージョン』をリリース。
同年11月には5枚組CDボックス『冠二郎 名曲を唄う BEST80 Songs』をリリース。
- 望郷物語(冠二郎)
- さすらい(小林旭)
- 北へ帰ろう(徳久広司)
- おんな港町(八代亜紀)
- 北帰行(小林旭)
- 石狩挽歌(北原ミレイ)
- 風雪ながれ旅(北島三郎)
- 誰か故郷を想わざる(霧島昇)
- 無錫旅情(尾形大作)
- 石北峠(長坂純一)
- 函館の女(北島三郎)
- 函館本線(山川豊)
- 白い海峡(大月みやこ)
- 津軽海峡・冬景色(石川さゆり)
- 二人の海峡(内山田洋とクールファイブ)
- 旅の終りに(冠二郎)
- 酒場(冠二郎)
- みれん酒(冠二郎)
- しのび酒(冠二郎)
- 酒 尽尽(五木ひろし)
- おもいで酒(小林幸子)
- ひとり酒(宮史郎)
- 夢追い酒(渥美二郎)
- そんな女のひとりごと(増位山太志郎)
- 水割り(渡哲也)
- 昔の名前で出ています(小林旭)
- 氷雨(佳山明生)
- 浪花盃(五木ひろし)
- 酒よ(吉幾三)
- こころ酒(藤あや子)
- 酒に酔いたい(冠二郎)
- 人情酒場(冠二郎)
- 亜樹子(冠二郎)
- おゆき(内藤国雄)
- みちづれ(牧村三枝子)
- すきま風(杉良太郎)
- さざんかの宿(大川栄策)
- 矢切の渡し(細川たかし)
- 長良川艶歌(五木ひろし)
- そして…めぐり逢い(五木ひろし)
- さだめ川(ちあきなおみ)
- ゆうすげの恋(森進一)
- 火の国の女(坂本冬美)
- 蛍(松原のぶえ)
- むらさき雨情(藤あや子)
- 心凍らせて(高山厳)
- おまえとふたり(五木ひろし)
- ふたりの止まり木(冠二郎)
- 演歌人生(冠二郎)
- のぼり竜(鉄砲光三郎)
- 逢いたかったぜ(岡晴夫)
- 無法松の一生(度胸千両入り)(村田英雄)
- 与作(北島三郎)
- 男船(新野美伽)
- 海の祈り(鳥羽一郎)
- 北の漁場(北島三郎)
- 北海あばれ節(冠二郎)
- ねぶた男肌(冠二郎)
- 男の子守唄(冠二郎)
- 兄貴(冠二郎)
- おやじの背中(北島三郎)
- 影法師(堀内孝雄)
- 天命(冠二郎)
- 大文字(冠二郎)
- まごころ(冠二郎)
- 餞(はなむけ)(冠二郎)
- 炎(冠二郎)
- ムサシ(冠二郎)
- バイキング(冠二郎)
- 燎原(りょうげん)の狼
〜若き日のジンギスカン〜(冠二郎) - 望楼(ぼうろう)の果て(冠二郎)
- 波濤万里(冠二郎)
- 都忘れの花のように(冠二郎)
- 満天の星(冠二郎)
- ほろよい酔虎伝(冠二郎)
- ブラボー酔虎伝(冠二郎)
- 浪花酔虎伝(冠二郎)
- 愛しき人よ(冠二郎)
- 歌は世界を救う!!(冠二郎)
- 冠 Revolution(I Like Enka MIX)(冠二郎)