インタビュー

スペシャルインタビュー 鮫島有美子

鮫島 有美子 (さめじま ゆみこ)

東京芸術大学声楽科、同大学院修了。
1975年、二期会オペラ『オテロ』でデビュー。

1975年、オペラデビュー。その後ベルリン音楽大学に留学。在学中より、ヨーロッパ各地で演奏活動を始め、ウルム歌劇場専属歌手に採用される。

1985年、「日本のうた」でレコードデビュー。ドイツをはじめ各ヨーロッパ諸国、中南米、そして日本でも、オペラやリサイタル、全国にわたるコンサートのツアー、テレビ、ラジオなど精力的にその活動の場を広げている。


世界的な声楽家の鮫島有美子さんが、デビュー盤『日本のうた』を発表したのが1985年。「コロムビア創業100周年」を迎える2010年は、鮫島さんの「レコードデビュー25周年」にもあたり、CD5枚組+鮫島さんの映像を収めたDVD1枚がセットになった記念盤を発表する。それを記念して、『日本のうた』のエンジニア久木﨑秀樹さんとの対談形式で、これまでの軌跡や近況、今後の抱負などを語ってもらった。

鮫島有美子=S、久木﨑秀樹=K

新鮮な日本語の世界が次々と生まれる光景は、本当に感動的でした。

K:「レコードデビュー25周年」おめでとうございます。

S:ありがとうございます。お互い年をとりましたね(笑)。

K:『日本のうた』を録音した1984年7月の鮫島さんの姿は、今も鮮明に覚えていますよ。

S:録音前日に自転車で転んでしまって、皆さんの前に松葉杖で現れましたからね(笑)。急遽ホールの車椅子をお借りして、久木﨑さんには移動介助役までして頂いて…。本当にお世話になりました。

K:最初は「本当に歌えるかな」と心配しましたが、鮫島さんの美しい歌声が不安を一掃してくれて、「いける!」という確信に変わりました。それまでのクラシックの声楽家が歌う日本抒情歌は、言葉の響きが不自然で違和感があったのに対し、鮫島さんの歌声はとても素直で、日本語の歌詞の意味に照らした明快な発音だったので成功したように思います。

S:録音日程も過密で、今思うとよくお引き受けしたものだと我ながら感心してしまいます(笑)。ただ、歌詞は日本語でも、音楽的にはまったく西洋音楽ですから、日頃と同じスタンスで録音に臨めました。

K:伴奏のヘルムート・ドイチュさんに、鮫島さんが歌詞を逐一ドイツ語で訳してさしあげていたのもすばらしかったと思います。また彼は彼で、「日本抒情歌の伴奏は、少ない音で構成されているから細心の注意が必要。だから歌詞や曲想の変化に沿って、和音の響きを変えて弾いている」と仰っていましたね。お二人のそうした緻密な話し合いによって、新鮮な日本語の世界が次々と生まれる光景は、本当に感動的でした。

S:それもこれも、こんな良い作品に仕上ったのも、久木崎さん始めスタッフの皆様のお陰です(笑)。それから今日まで25年、日本歌曲以外にも、モーツァルト、シューマン、マーラー、シャンソン、映画音楽など幅広いジャンルを録音させて頂き、気がつけばオリジナル・アルバムだけで50枚以上にもなってしまいました。

K:最近は、「天皇陛下御在位20年記念式典」で、陛下のお好きな『野菊』の特別編曲版を歌われたり、チャリティ・リサイタルに積極的に御出演されたりと、ますます多岐にご活躍中ですが、3月27日には、東京オペラシティのリサイタルも控えていますね。

S 東京以外にも、札幌と西宮で同じ公演を予定しています。共演は、主人(ドイチュさん)のピアノと室内アンサンブル(アンサンブル・アディ)で、すべて日本の歌で編んだプログラムです。『この道』『初恋』『千の風になって』など、幅広く自由な選曲なので、皆さん、思い思いにお楽しみ頂ければと思います。

日本抒情歌の歌詞に歌われている美しくのどかな世界を、これからも一人でも多くの方々に届けていきたい。

K:そして、1月20日に、CD5枚組+鮫島さんの映像を収めたDVD1枚がセットになった記念盤が発売になるわけですが。

S:自選の2枚組ベスト盤というお話もありましたが、自分の録音を全部聴き直すのはとてもツライので、選曲は皆さんにお任せしてしまいました(笑)。日本レコード界の屋台骨をずっと支えてきたコロムビアの100周年に、こんな素敵なアルバムを作って頂き、本当に感謝しております。

K:選曲リストを眺めてみると、各録音の思い出が走馬灯のように駆け巡って呆然となりました。聴きどころは全部と言いたいところですが(笑)、なかでも初期録音の『お菓子と娘』や『霧と話した』は、鮫島さんの歌でこの曲の良さを知ったという声を多く聞きました。知られざる名曲を沢山紹介した鮫島さんの功績を讃える意味でも、この2曲は改めて注目して頂きたいです。

S:日本抒情歌も、西洋クラシックの名曲も、ファンの皆さんの平均年齢が上がるにつれて、残念ながら確実に身近な存在ではなくなってきています。今回の収録曲の多くも、世代が進むにつれて忘れられてしまう運命なのかもしれませんが、歌詞に歌われている美しくのどかな世界は、忘れられるには惜しい宝物だと思うんです。ですから今回のアルバムも、今後の活動も、そうした古きよき時代の音楽の魅力を少しでも多くの皆様にお伝えできる一助になれば、こんなに嬉しいことはありません。


きき手・構成:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト) 2009.11.19.コロムビア本社,虎ノ門
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鮫島有美子がうたう 日本のうた・世界のうた 100